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Wi-Fi 6特許:発展の現状と展望
2023-12-05
Topic:Wi-Fi 6, 特許

2018年10月にWi-Fiアライアンスは次世代Wi-Fi技術802.11axをWi-Fi 6と改名した以降、中国でも世界でも、Wi-Fi 6の普及度は着実に増加しています。5Gデバイスと比較して、Wi-Fi 6デバイスは主に屋内環境、公園、および一部の固定使用場所に使用されます。Wi-Fi6技術の普及に伴い、Wi-Fi6技術をサポートするデバイスは、今後一定期間内において、関係者間で競争の激しい人気製品になるだけでなく、市場シェアを争う権利行使者にとって欠かせない重要な技術コンポーネントとなります。各主要な権利者も時機を逃さず、自身の技術による価値の貨幣化を最大限に実現しようとしています。

(1)中国におけるWi-Fi 6技術の普及度合い

主要な企業はWi-Fi 6の研究開発と普及にかなりの時間を費やしてきましたが、中国では2020年ごろになってようやくWi-Fi 6製品が消費者の目に入るようになりました。2020年5月、世界電気通信および情報社会大会がオンラインで開催され、中国の3つの主要な通信事業者(中国電信、中国移動、中国聯通)がそれぞれ記者会見を開き、2020年にWi-Fi 6の新たなビジネスモデルをさらに推進することを発表しました。その中、中国移動は、2020年6月にWi-Fi 6の商用化を実現し、完全にWi-Fi 6時代に参入する予定であり、同時に年内に約500万のWi-Fi 6ユーザーの開拓を計画しています。しかし、2021年の中国Wi-Fiデバイス業界の報告によると、2021年までに、Wi-Fi 4とWi-Fi 5が市場を支配し続け、Wi-Fi 5の総体的な規模は依然として上昇傾向にあります。特に家庭用のワイヤレス市場では、Wi-Fi 4とWi-Fi 5が市場シェアの約85%を占めています。

2022年の中国情報通信研究院のレポートによると、Wi-Fi 6の標準に対する提案貢献度が最も高い上位10社のうち、中国本土の企業が2社含まれており、それは2位に位置するファーウィ技術と、10位に位置する中興通訊です。10年前、ファーウィはWi-Fi 6の標準の策定作業を開始し、2017年に最初のWi-Fi 6の標準バージョン草案が公開されるまで、同社の提案数は業界トップの位置にありました。その後、クアルコム社は2017年に標準制定における参加度を強化し、2018年には提案数でファーウェイを上回り、業界のトップになりました。特許ポートフォリオでは、ファーウィは最初に自社と大手企業とのライセンス交渉を選択していたが、その後、自社の特許価値を貨幣化するために特許プールに参加することを選択しました。2021年12月21日にファーウィは日本の会社Buffalo Inc.と提携することを発表し、Wi-Fi 6に関する特許ライセンス契約を締結しました。しかし、それから7ヵ月後の2022年7月19日、ファーウェイはSisvel Wi-Fi 6の特許プールに初期メンバーとして参加したことを発表した。

(2) 特許プールとNPE:コンピュータメーカーを被告として始まる特許訴訟

現在最も有名なWi-Fi 6の特許プールは、Sisvel Wi-Fi 6です。この特許プールは現在、200以上の特許ファミリーをカバーしており、ファミリ数で計算すれば、そのうちの約60%はファーウィが貢献しています。企業向けの接続ポイント以外の製品について、Sisvelの現在の公開されているWi-Fi 6の実施料金は0.5ドルです。この実施料金は、ファーウィがWi-Fi 6の消費者向けデバイスに対して設定しているライセンス料金と完全に一致しています。この特許プールはまだ設立されたばかりであり、現時点では、SisvelがWi-Fi 6特許を実施者に対して訴訟を提起した事例はまだありません。

Atlas Global Technologies LLC(「アトラス」)は、Wi-Fi 6の分野で注目を集める有名な特許所有者です。Atlasは、有名なNPE会社であるAcaciaの子会社として、Wi-Fi 6に関連する特許の取引に専念しています。これらの特許は、半導体会社であるNewracomから譲渡されました。Atlasは世界中で355件以上の特許を保有しており、そのうち210件以上はアメリカの特許であり、149件はWi-Fi 6の標準必須特許です。2021年以来、AtlasはHP、Dell、One Plus、TP-Link、Samsung、D-Linkなどの多くの企業に関連訴訟を提起しています。2023年9月14日までに、アメリカのテキサス州の東部地区裁判所は、陪審団の判決により、TP-LinkがAtlasの5つの特許を侵害したと裁定し、3,748万1,264ドルの一括賠償金を支払うこととなりました。現時点では、Wi-Fi 6の特許所有者は、最初の訴訟対象として、ルーターやパソコンメーカーを選択する傾向があります。なぜなら、スマートフォン市場では、まだWi-Fi 6技術が広く採用されず、被告となるスマートフォン企業は比較的少ないからです。

AX Wireless Technologies は、かなりの数の Wi-Fi 6 特許も保有しています。2022年7月に、AX WirelessがDell、HP、Lenovoに対して訴訟を提起しました。この訴訟は、主にApplied Transform LLCから譲渡された特許に関連しています。2023年2月、AXワイヤレスは、Acerに対して再び訴訟を提起しました。明らかなように、AX Wirelessは最初の訴訟対象を選ぶ際に、まずコンピュータ業界を主な対象としています。

AtlasとAX Wirelessの訴訟状況からは、現在のWi-Fi 6特許所有者が主にコンピュータ製造業者に焦点を当てていることがわかります。このトレンドは、製品の特徴によって決定されます。スマートフォンに比べて、コンピューターは屋内やオフィスの環境でより多く使用されており、これがWi-Fi技術の利点です。これに対し、携帯電話は比較的頻繁にセルラーネットワーク技術を使用するため、特許のライセンスの必要性は比較的低いです。したがって、レノボなどのいくつかの中国の老舗パソコンメーカーは、Wi-Fi 6の権利者の第一陣の権利行使のターゲットとなることは予想外ではありません。

(3) 権利者と特許実施者:高額なライセンス料と潜在的な市場需要

Wi-Fi 6デバイスの普及と市場需要の増加により、関連特許を所有する企業は、より多くの特許価値を実現する機会に恵まれます。Wi-Fi 6技術の利用は、キャンパス、企業、スマートホームなどのさまざまなシーンで広がり続けており、特許所有者に多様な市場の機会を提供しています。中国やその他の地域でのWi-Fi 6の推進に伴い、市場シェアをめぐる競争はさらに激化し、企業は特許価値の実現を促進するために、特許ライセンスや協力を積極的に求めることになります。Wi-Fi 6特許プールの登場により、特許所有者により利便性の高いライセンス経路が提供されるだけでなく、合理的な実施料金の規定も行われており、貨幣化のプロセスを加速することに役立ちます。NPE の積極的な参加により、市場競争が激化し、より多くの特許ライセンスや訴訟をもたらしています。Wi-Fi 6の特許の貨幣化は今後も繁栄し続け、特許所有者はこの技術のブームから大きな経済的なリターンを得ることが期待されています。

しかし、多くの実施者は、早期にWi-Fi 6技術を採用することが彼らの負担を増やし、即時のリターンを得ることができない可能性があることを懸念しています。高額なライセンス料金により、多くの企業がためらっており、より成熟し経済的な解決策が出るまで待つことを選んでいます。この慎重な態度は、Wi-Fi 6技術が一部の企業の製品普及プロセスで進展が遅くなる原因ともなっています。企業は、市場需要と技術投資の実行可能性を天秤にかけ、新技術の適用において経済的な利益を確保することが必要です。そのため、時間の経過とともに、Wi-Fi 6の技術の成熟と価格の低下が進むにつれて、多くの企業は、特許経費と消費者の要求のバランスを保ちながら激しい市場競争力を維持するために動的に態度を調整することになるでしょう。

作者
Xinran Zhao
xinran.zhao@purplevineip.com
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